ロックと童貞、その息子と黒ビキニ。

オカズって?

週末になるといつも、子どもたちを車に乗せて習い事(バスケなど)の送り迎えをしている。その道すがら、車の中ではSpotifyで音楽をかけ、まるでカラオケボックスのように子どもたちと熱唱している。

息子にいたっては、歌詞を見ながら二、三回歌うだけで、だいたいの歌詞を憶えるという特技も持っている。その記憶力、勉強にも活かしてほしいものである。

Spotifyのお気に入りの中から、子どもたちと三人で好きな曲を順番に選曲しあうのだけど、RADWIMPSが好きな息子はいつも同じ曲をセレクトしてくるので、こちらもたいがい飽きてきた。 

オマエがオカズならばオレはどんぶり50杯は軽くご飯おかわりできるよ

ちなみに、オカズって変な意味じゃないんで嫌いにならないでね

RADWIMPS / いいんですか?

「ねぇ、オカズって変な意味なの?」
と、息子が唐突に聞いてきた。

「お、おおぉん、別に変な意味じゃないけど、いろんな意味があってな・・・」

「いろんな意味って?」

「・・・」

十歳前後にもなると、テレビなどで大人が発する単語について

「○○○ってなに?」となんでもかんでも聞いてくる。そのたびに、子どもにもわかる単語を使って説明することのむずかしさを知る。

で、この場合の「オカズ」についてはなんと説明したらいいのか。たぶん息子も、一般的に言う「オカズ」のことを指しているのではないことはうすうす勘づいているかもしれない。

ワタシが思春期の頃はそんな捻りの利いた隠語なんてなかった。強いていうなら「ズリネタ」。「ズリ」とは「センズリ」のこと。ようするに「オカズ」とは「センズリのネタ」であり、正しい日本語で教えるとすれば「自慰行為の対象」のことを指す。さすがにここまで教えるのはまだ時期尚早と判断し、息子の質問に答えることなく別の話題で答えをはぐらかした。

もう、子どもの性教育について考えなければいけない年頃なのか?いや、ジブンが小学四年生の頃は「おちんちんがかたくなる」ことはあっても、それが「えっちなことをかんがえてるから」と結びつかなかったと思う。ましてや、「オナニー」という行為があることなど知る由もない年頃だったと思う。

そういえば、いつから「オナニー」するようになったんだっけ?

ちなみに、ワタシが師と仰ぐみうらじゅんセンセは、「正しい保健体育」という著書の中で「若いうちは、とにかくオナニーをすべきです。」と説いている。

と、ここまで書いておいてなんだけど、この単語を連呼するのも気が引けるので、ここからは「オカズ」からの流れで「晩ごはん」と呼ぶ。

晩ごはんのオカズ

ワタシが中学生にあがった頃だったと思う。エロの世界は突然やってきた。

その当時、マイケル・ジャクソン「スリラー」のMVが音楽番組を席捲していた。ひとつ上の兄貴がいたせいもあって、この頃から深夜時間帯に放送されていた「ベストヒットUSA」や「MTV」を観るようになった。

夜遅くまでテレビを見ていると「早く寝なさい!」とおかんに怒られるので、毎週土曜日になると、親父が持っていた小型のポータブルテレビ(白黒)をこっそり拝借し、二段ベッドの布団の中でこっそり観ていた。

ある夜、「ベストヒットUSA」から「MTV」にチャンネルを回すとき(当時はチャンネルを物理的に回す構造)、UHF局の番組でなにやら女の人の裸が流れているのが目に止まった。しかも、今では考えられないエロビデオ(当時はまだアダルトビデオとは呼ばれていなかった)の映像がまんま流れているではないか。

まだエロビデオの存在すら知らない年頃なので、テレビでエッチな番組がやっていることに驚きを隠せなかった。と同時にカラダの方の反応も隠せなかった。

「おちんちんがかたくなった」のである。

「えっちなことにおちんちんが反応する」ことを初めて知った夜。こうしてヤモヲ少年の思春期は突然やってきたのである。

その翌日、同級生のたっちゃんに昨晩の衝撃的な出来事を話すと、

「それ、『おとなの子守唄』でしょぉ、毎週観とるよ」と、どちらかというとおませグループだったたっちゃんは既に知っていた。幼稚グループのヤモヲ少年は、「おとなの子守唄を毎週観ている」というたっちゃんが大人に見えてちょっと悔しかった。

そんな動揺を隠せないワタシに向かって、さらにたっちゃんが

「んで、センズリしたの?」
と、聞いたことのない四文字単語で聞いてきた。

「・・・。せんずりってなに?」
純朴なヤモヲ少年は、なんとなくエロそうなその単語の意味を真顔で聞いた。まさに、ワタシの息子が質問してきたように。 

「晩ごはんのことやて」
これがワタシの「晩ごはん」との出合いである。

その後、たっちゃんの家に移動し、たっちゃんの二つ上のお兄ちゃんが持っていた「BOMB!」や「明星」の付録本(エロ特集)を見せてもらった。それらの本には「晩ごはん」のことが書いてあって、たっちゃんはすでに経験済みとのこと。すげぇなたっちゃん、とちょっとだけ尊敬したことを憶えている。

童貞が流れるプール

その頃のヤモヲ少年は、MTVで観て衝撃を受けたヘヴィメタルやハードロックにのめりこんでいた。兄貴の友達からもらったTOKAIのギターで、クワイエット・ライオットやモトリー・クルー、トゥイステッド・シスターなどの曲を「YOUNG GUITAR」のバンドスコアを見ながら熱心にコピーしていたロック少年であった。

「ギターが上手くなりたいので、そのバンドのMVを見たい」と、とってつけたような口実を並べて、毎週土曜日の深夜になるとMTVを観るという体で親父から小型テレビを借りれることになった。

ヤモヲ少年の願いが叶い、実際には「サタデーナイトショー」からの「おとなの子守唄」という流れで、わずか1分程度しか流れないアダルトビデオ紹介コーナーに、下半身の全神経を集中し、晩ごはんのオカズをチェックしていたのである。いま思うと、その時の集中力たるや、竈門炭治郎にも勝るとも劣らぬ「全集中」である。

その後、成長するにつれてオカズの好みも、それを手に入れる手段も進歩していくのが一般的。ある友人は、親が隠し持っていた金髪モノのエロビデオをこっそり入手し「トレイシー・ローズとニッキー・チャームがたまらんのやてー」と自慢していたり、年の離れた兄貴から入手した「ビニ本」を学校で見せびらかしている友人もいた。ワタシも貸してもらって見てはみたものの、その内容が生々しすぎてちょっとひいてしまったくらい。

中学二年の夏休み、たっちゃんと、もうひとりの友人・岩ちゃんの坊主頭三人は、いつものように自転車でレンタルレコード屋へディグりに行ったあと、暑さでモーローとしたせいか、その場の勢いで電車とバスを乗り継ぎ「流れるプール」に行くことになった。坊主頭三人の目的はただひとつ「水着のおねぇさんを見る」ことである。

カンカン照りの日差しの中、流れるプールは人でごった返していた。まさにイモ洗い状態である。そして、坊主頭たちの期待通りである。ちょっとやんちゃな岩ちゃんは、さっそく流れるプールに飛び込み、水が勢いよく流れ出てくる流水口に足をとられて流されながら、プールの底から水中眼鏡でジロジロと水着のおねぇさんを眺める、といった作戦をとった。

「それいいな!」
と、たっちゃんとワタシも同じように足を取られたふりして流される作戦を実行していたところ、水面から顔を出した数メートル先に、どこかで見たことのある女の子の姿が。

「あれ、れいちゃんじゃない?」
と、たっちゃんも気づいた。同じ公文に通うとなりの中学校の「れいちゃん」だったのである。「れいちゃん」は、ショートカットの似合うめちゃくちゃかわいい同い年の女の子。もちろん、童貞なので一度も話したことはない。

そんなれいちゃんが同じプールにいる!と、浮足立ったワタシはれいちゃんの水着姿をひとめ見ようと「童貞流され作戦」のタイミングを見計らっていた。ラッキーなことにそのタイミングはすぐに訪れた。坊主頭が水面下に吸い込まれた瞬間、水中眼鏡越しに見たれいちゃんの水着姿は・・・
 

なんと、黒いビキニである。

水面の光でゆらゆらと輝く、黒いビキニ。今でも目に焼き付いて離れない。れいちゃんといっしょに来ていた友だちも、同じ公文に通う「さっちゃん」という子で、その子も水色のビキニを着ていた。中学生のくせして、ビキニなんか着て遠く離れた校下外のプールに遊びに来るとは、なんておませなんだ!と、ジブンたちの低レベルで幼稚な行為を恥じた。

それ以来、黒いビキニを見ると下半身がすぐに反応するようになった。生々しいエロビデオよりも「黒いビキニ」のほうが興奮するという、中学生らしからぬ特殊な性癖が芽生えてしまったヤモヲ少年の誕生である。

黒ビキニの誘惑

そんなヤモヲ少年、遅まきながら二十歳で童貞を捨てることになるのだが、それまでの長かった童貞時代の中で、ヤモヲ少年が大好きだった「晩ごはんのオカズ」をここでご紹介しよう。

本上まなみ

当時、夏になるとかならず放送されていた特番「アイドル水泳大会」で、ユニチカの水着キャンペーンモデルとして、真っ白な水着でプールを歩く本上まなみちゃんにひとめぼれ。どこかしらあの「れいちゃん」に似ていた。さっそく、写真集を買ってページをめくると、そこには黒いビキニのまばゆい姿が。

本上まなみ
(画像 )

少女隊

少女隊は、ヤモヲ少年の後の人生に多大なる影響を与えた存在といっても過言ではない。そんな彼女たちも写真集やグラビア、レコードジャケットなどで、ビキニ以外にも黒い水着をかなりの率で着用している。ヤモヲ少年はとくにミホちゃんの黒ビキニが好きだった。

少女隊
(画像 )

少女隊とヤモヲ少年

少女隊が、なにゆえにヤモヲ少年の人生に影響を与えた存在であったかを話そう。

中学三年になったヤモヲ少年。当時の童貞中学生たちが夢中になったアイドルといえば、おニャン子クラブである。ヤモヲ少年は、そんなマジョリティな偶像崇拝にはまったく眼もくれず、少女隊一筋だったわけで。

もちろんファンクラブにも入っていた。月一回送られてくる会報誌をチェックしていたところ、公開ラジオの収録でなんと我が地元にやってくるとの情報が!コンサートでも地元に来るなんて一生に一度あるかないかの田舎なので、別に少女隊が好きでもないたっちゃんを強引に誘い、当日、心躍らせながら会場に到着した。

会場は人も多くなく(少女隊がマイナーアイドルなのがわかる)、できるかぎり近くで見たかったので入場口に早めにならんでいると、どこからみてもヤンキー風の髪の毛がとんがったお兄さん二人が近寄ってきた。

「おまえらどこから来たんや」
と、坊主頭二人に絡んできた。

「え、あ、あ・・・」
これがカツアゲか・・・と覚悟しながらも、ビビってるのを悟られないようできるかぎり平静を装った。すると、

「ファンクラブ入っとるんか?」

「誰が好きや?」
と、次々と話しかけてくる。あれ?もしかしていい人たち?と思い直し、

「ミホちゃん」
と答えると、

「そーやろー、やっぱミホちゃんやろー」
と、もうひとりの強面のお兄さんが握手してきた。ヤモヲ少年も強張った笑顔で握り返した。

その後、いろいろと話すうちにファン同士としてすぐに打ち解け、

「どこ中?」と聞かれたので、「○○○中」と答えると、

「なんやー近くやん、オレんら○○○中」

えーーーっ!中学生!しかも同い年!ということがわかり、髪の毛を立て、ミリタリー風のコートにボウリングシューズを履いた(あとからモッズ・ルックだということがわかる)、同じ中学三年生とは思えないオシャレな姿に、たっちゃんとふたりして愕然とした。(ちなみに我々は校則をきちんと守り、ジャンパーの下は学校のジャージを着用)

カルチャーショックを受けたヤモヲ少年は、開場前にトイレに行こうとジブンだけその場を離れ、地階にあるトイレに行くためにエレベーターを待っていた。そして、エレベーターの扉が開いた瞬間、ヤモヲ少年の心臓が止まった。

すぐ目の前、エレベーターの中に、なんと少女隊の3人がいたのである。

「・・・」
体は硬直し言葉を発することもできず、「チーン」という音とともにエレベーターの扉が閉まった。ちょっとオシッコも漏れていたであろう。

「ミホちゃん、見ちゃった」
と、ミホちゃんの黒ビキニ姿を思い浮かべながら、たっちゃんに報告したことを今でも憶えている。

「宝島」との出合い

その数日後、あの時出会ったヤンキーから「宝島って本に少女隊が特集されとる」と聞いたことを思い出し、さっそく本屋へと急いだ。

はじめて手にした「宝島」という雑誌は、本のサイズも単行本のマンガくらい小さくて、今まで見たことのないジャンルの内容に、純朴なヤモヲ少年は興味津々。

テキストだらけの体裁に変なイラストが織り交じった異世界の誌面の中に、少女隊のインタビューが載っていた。これもまた文字ばっかり。
なんじゃこの本、と思いながら、せっかく買ったので最後まで読み進めていくと、

「ナゴム?有頂天?ばちかぶり???なにそれ?」

「湯村輝彦?スージー甘金?中森明夫???だれそれ?」
まったく聞いたことのない固有名詞ばかりで内容もよくわからんけど、そこにはヤモヲ少年の知らない世界が繰り広げられていた。

「なんだか面白そうな世界。」
ヤモヲ少年が「サブカルチャー」に触れた瞬間である。

その日から、ヤモヲ少年はサブカルチャーという価値観に目覚め、これまで読んでいた「BOMB!」や「明星」などのアイドル雑誌をやめ、「宝島」にはじまり「STUDIO VOICE」「FOOL’S MATE」「DOLL」といったサブカルチャー寄りの雑誌ばかりを好んで読むようになり、テレビ番組も「ビデオジャム」「ファッション通信」「タモリ倶楽部」を毎週チェックするようになった。
 

思い返せば、少女隊を好きになり、あの時出会ったヤンキーに「宝島」を教えてもらわなかったら、今のワタシは存在しなかったといっても過言ではない。

息子よ。

やがてキミもセンズリを覚え、ジブン好みのオカズを見つける日が来るだろう。

そのオカズが、たとえマイノリティーであっても、偏執的な嗜好が若干見受けられたとしても、ぜんぜん気にすることはない。

そこから、キミの知らない世界が目の前に広がっていることに気づいてくれれば、父さんはそれでいい。

ただ、そうなった場合、童貞を捨てるタイミングが人より遅くなるかもしれない。ま、みうらセンセも「セックスは二十歳までしてはいけません」と言ってるから気にしなくてもいいが。

ちなみに、父さんが童貞を捨てた二十歳のある夜、年上のサブカル女子に誘われてこの映画を観たんだ。
 
「コックと泥棒、その妻と愛人」

ちょっとエロくって、それでムラムラしちゃったんだな、これが。

「ねぇ、オカズって変な意味なの?」

「そうだなぁ、オカズってのはなぁ、黒いビキニみたいなもんだな」

ごちそうさまでした。

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